別館・その7 絵本の世界

ここは、佐藤さとるさんの数ある絵本作品の中でも、絵と共に読むことで、
作品世界により深みが出ると感じる作品を、集めてみました。


不思議な不思議な長靴NEWおおきなきがほしい

 



 黄色い長靴 不思議な不思議な長靴 青い長靴  

 先日、「鬼ヶ島通信第39号」が、私の家に到着しました。(注:鬼ヶ島通信って何?という方はこちらをご参照ください)

 
39号は、『子供の本と挿絵』という特集を組んでいて、対談や、今江祥智さん、宇野亜喜良さんなど、挿絵に携わる方々のエッセイが、多数、掲載されています。
 ここで、その内容をお話することは、控えさせて頂きますが、挿絵のあり方について、いろいろ考えさせられる、内容の濃い特集でした。

 特に、佐藤さとるさんと村上勉さんを中心とした対談は、挿絵をめぐる作家と画家の、丁丁発止のやりとりの一端がほのみえて、ファンにとって、とても魅力あるものになっています。

 この対談で、作家と画家との攻防戦の具体例として挙げられていたのが、この作品です(多分)
 問題になったのは、長靴の‘色’だったのですが、村上勉さんの、画家としてのプライドをかけた、力技が光るエピソードでした♪

 私は、このお話を文庫版でしか読んだ事がなかったので、早速、挿絵みたさに、図書館に行ってきました。

 本の中では、アース系の色調のなかに、村上勉さんの強硬な(?)主張の結晶である、長靴が、見事な存在感を示していて、微笑ましかったです。
 この絵本は、文章と挿絵が、車輪の両輪となって、イメージが練り上げられた作品特有の、楽しさが伝わる作品だと思います。
 
 
 お話は、カオルくんが庭先で、小さな長靴を拾うところから、始まります。
 日常の風景に、ちょっとだけ不思議な出来事が忍びこむ、佐藤さとるさんの、最も得意とするタイプのお話です。  自分の大切なものを、大事にそっと持っているカオル君の姿も、佐藤さとるワールドの中では、よく見かける光景といえるでしょう。

 佐藤さとるさんの作品の魅力の一つに、登場人物が、自分の内面世界を、とても大切にしていることが、あると思います。
 それを閉鎖的と言う人もいるかもしれませんが、人はそれぞれ、自分の中に、小さな国を持っているからこそ、個性があり、人としての深みが生れるのではないでしょうか?
 その事を、さりげない形で、物語として昇華できることこそが、佐藤さとるさんの凄さかもしれない・・・などと考えてしまいました。

 
 ちなみに、私が借りた本は、30年近い歳月を経て(?)ラクガキがいっぱいしてありました。これこそが、作品が愛されていた証拠かもしれません♪ 


 この作品は1972年に偕成社から、「ふしぎなふしぎなながぐつ」というタイトルで、出版されました。ほかに講談社文庫「佐藤さとるファンタジー童話集T」に収録されています。
追記1:最近偕成社から絵本が復刻されました。興味のあるかたはこちら
BK1→ 
追記2:村上勉さんの挿絵ではありませんが、ゴブリン書房「佐藤さとる幼年童話自選集4」にも収録されています。

(2002.6.10.UP)
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緑の木 NEW おおきなきがほしい赤い木(紅葉?)  

 佐藤さとるさんの絵本の中でも、私が最高傑作の一つに挙げたい作品の一つが、この「おおきなきがほしい」です。
 なぜ私が、この本を絵本の最高傑作と位置付けるかといえば、それは、絵本でしか成しえない、“読む楽しみ”を提供してくれているからなんです。
 
 物語は、主人公のかおるくんがおおきな木がほしいなぁと思うところから始まります。
 
 かおるくんがどんな木がほしいか想像してゆくのにあわせて、物語は、あたかも木が成長するように、ぐんぐんとイメージをひろげてゆきます。
 そして、読んでいる私達も、 かおるくんと一緒に、かおるくんのおおきな木に登ってゆくことになります。

 この、木の幹にかけてあるはしごを一段ずつ登っていくような気分にさせる、佐藤さとるさんの描写の巧みさを、さらに引き立てているのが村上勉さんの挿絵です。

 かおるくんの木はとても大きな木なので、私達は本を90度回転させて縦にして、上へ上へと登ってゆかなくてはいけません。
 この続き絵の手法は、日本古来の絵巻物の伝統を彷彿とさせますが、この本の面白さは、絵巻のように、右から左へ絵が流れてゆくのではなく、上に向かって進んでゆくところにあります。

 上にむかって話が進んでいくという意外性は、この作品の面白さの核と言っても過言ではないでしょう。
 そして、この面白さは絵本でしか味わえないものなのです。

 木のてっぺんについた瞬間、かおるくんは、喜びのあまり思わず「わーい」と叫びます。
 と、同時に、本は一転して、もとの横型の形式に戻ります。 
 こんな巧みな場面転換があるでしょうか?

 しかも、そのあとに続くかおるの想像する木の上の生活の描写の細かいことといったら!
 挿絵の細かい描写の一つ一つが、ささやかな発見をした気分にさせてくれます。

 この本を読むと、誰もが自分自身の大きな木がほしくならずにはいられないのではないでしょうか? 
 木のぬくもりや、木のすがすがしさと共に過ごすことの楽しさを、思い出させてくれるこの本が、私は大好きです。
 木漏れ日のなかで過ごす贅沢を、思い出したい時には、ぜひ、この本を手にとっていただけたら、と思います。
 


 この作品は1971年に偕成社から出版されました。 
ほかに佐藤さとる全集2巻、佐藤さとるファンタジー全集14巻、講談社文庫「佐藤さとるファンタジー童話集III」に収録されていますが、現在は絶版となっています。
入手可能なのは絵本版だけだと思います。興味のあるかたはこちら→
BK1

(2004.9.22.UP)
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