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わんぱく天国
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ジュンと秘密の友だち 数ある佐藤さとるさんの作品のなかで、もっとも魅力的な男の子は、だれだろう?と考えたとき、私の頭の中に浮かぶ男の子の一人が、この作品の主人公のジュンくんと、その友だちのダイちゃんです。
そして、もっとも魅力的な女の子は誰だろうと考えるときに、真っ先に思い浮かぶのが、ジュンくんのお姉さんのミサオちゃんなんです。
もちろん、誰が一番かなんて、絶対に決められないのですが、真っ先に頭の中に浮かぶということは、やはり、私にとって、この作品の魅力は、登場人物に拠るところが大きいようです。
ジュンくんは、芯の強さと用心深さを兼ね備えているものの、一見ごく普通の男の子です。ただ、男の子らしい職人気質と、自分の庭から見える鉄塔にダイスケ鉄塔と名づけてしまう、想像力を兼ね備えているところが、他の男の子たちと一線を画する魅力となっています。
この内面世界の豊かさは、佐藤さとるさんが描く男の子が、共通して持っている資質です。
ジュンくんは、そういう佐藤さとるさんの描く男の子の魅力が、もっとも巧みに描写されているキャラクターの一人だと思うのです。このお話は、そんなジュンくんが、自分だけの秘密の小屋を作る過程でめぐり合った、不思議な友だちとの交流を描いた作品です。
物語は、自分だけの秘密の小屋を作る作業に、ダイスケ鉄塔のお化けかもしれない少年との出会いが絡むことで、二重の秘密を抱える構造となっています。
この二重構造が、小屋つくりという作業を、より一層秘密めいたものとし、ジュンくんの内面世界に深みを与えています。
一方、小屋つくりのリアルな描写によって、本来、ありえない筈のダイちゃんの存在感は、よりリアルなものとなっています。
人物の行動の一つ一つを丹念に描くことによって、その間にさりげなく織り込まれた不思議な出来事に現実感をもたせてしまう、佐藤さとるさんならではの手法の巧みさが、存分に発揮された理想的な設定だといえるでしょう。
また、ダイちゃんの正体を突き止める過程を、推理小説じみた謎解きにせず、以心伝心とでもいうべき、阿吽の呼吸の中にゆだねることによって、二人の絆の強さが強調され、お互いを思いやる気持ちが、新たな感動を生んだのだと思います。
そして最初と最後に、ジュンくんの姉であるミサオちゃんのエピソードを、織り込んで、心憎いばかりにさりげなく、運命的な出会いを予感させるあたりに、佐藤さとるさんの理想とする物語の集大成をみる思いがします。
実はこの作品、コロボックルシリーズとも、ちょっとした関係があります。
当時、コロボックル物語の別シリーズを、岩波書店から出版するという企画があり、佐藤さとるさんは、コロボックルの登場する作品を書き上げたそうです。
けれども、版権など絡みで、岩波書店から出版することが出来なくなってしまい、急遽、代わりに書かれたのが、この『ジュンと秘密の友だち』だったのです。
この時書かれたコロボックルの話は、第4作『ふしぎな目をした男の子』として、現在出版されています。
第4作が、他のシリーズとは違う独特の雰囲気をもっているのは、別シリーズとして想定されて書かれたことも一因だったようです。
『ふしぎな目をした男の子』は、コロボックルシリーズの起承転結の‘転’にあたる話とされています。
場面設定や登場人物に、前作との違いが多いことも一因ではありますが、少し時間をおいて書かれているせいか、全体的に、円熟とでもいうべき、厚みが感じられる仕上がりの作品だと思います。
思い込みかもしれませんが、『ジュンと秘密の友だち』に登場する人物の描写には、『ふしぎな目をした男の子』に感じる重厚さと、どこか共通する深みがあるように感じられます。
そのため、私にとってこの作品は、佐藤さとるさんの主要テーマの一つ、― 自分の内面世界を大切にすることによって生まれる新たな出会い ― を描いた作品群の中でも、円熟期の頂点に位置づけられる作品となっています。
この作品は、佐藤さとるさん特有の、リアリティの中に織り込まれた、ファンタジーの世界に生きる登場人物の魅力を、楽しんでいただくのに最適な作品の一つです。
また、秘密基地で遊んだ子供のころを思い出しつつ、大人が読むファンタジーとしても、強く勧めたい作品です。
この作品は、1972年に岩波書店から出版されました。ほかに講談社文庫「佐藤さとるファンタジー童話集Y」、同じく講談社から出版された「佐藤さとるファンタジー全集10、岩波少年文庫(1054)に収録されています。最近まで、岩波少年文庫が流通していたのですが、現在は在庫切れとなっています。残念ながら、現在新刊での入手は難しいと思います。
なお、この本の出版に関するエピソードの記述は、偕成社『現代児童文学作家対談1』を参照させていただきました。(2004.2.15.UP→2004.9.20一部修正)
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