別館・その2 男の子が活躍するお話

ここは男の子が活躍するお話を紹介するページです。
佐藤さとる作品には、主人公が男の子の作品がたくさんありますが、
その中で特に私がお気に入りの作品を紹介するページになる予定・・・です。


秘密のかたつむり号わんぱく天国ジュンと秘密の友だち



ミニ風?の車 秘密のかたつむり号 モスグリーンのワーゲン?

 この話の主人公は、アキラとタツオとタカシという3人の男の子です。

 アキラとタカシは仲がよくて、ケンカなんかしたことはありません。
 タツオとタカシも、時々タツオが、おとなしいタカシがじれったくなって怒ることはあっても、ケンカをしたことはありません。
 でも、アキラとタツオはすごく仲がいいので、しょっちゅうケンカばかりしています。

 そんな3人が仲良くなったきっかけは、タカシの家の西隣のあき地に置きっぱなしになっていた小型のおんぼろ車でした。 ―――――


 誰もが、子供のころに一度は、自分だけのヒミツの基地で、遊んだ記憶があると思います。
 この話には、そんな記憶を呼び覚ましてくれる、エピソードがいっぱい詰っています。

 いわゆる“ファンタジー”的な出来事はなにも起こらないのですが、3人の男の子の個性と日常が丹念に書かれているため、佐藤さとるさんがリアルな描写の名手であることを、感じさせる作品です。

 特に、3人が宇宙船ごっごをする場面は、私達も一緒に、月へ飛び立って行く気分を味わえる、楽しいエピソードだと思います。
 三人は、宇宙船をみごとに操って月へ上陸する瞬間、初夏の日差しに彩られた空き地へと舞い戻ってくるのですが、この想像と現実世界との場面転換の見事さは、“ごっご遊び”の楽しさを、生き生きと再現してくれています。


 このお話のヤマは、もう少し先にあって、ちょっと切ないのですが、こういう痛みって、形は違えど、誰もが一度は経験する痛みなのではないかと思います。
 それだけに、共感する部分は多かったのですが、一方で、男の子って楽しそうでいいなぁ・・・という入り込めない疎外感もあったりして、けっこう読後感は複雑でした。
 そういう意味では、男の人の方が入り込める話かもしれません。

 とにかく、三人の個性が魅力的な作品です。佐藤さとるさんの人物描写を堪能したい方は、是非、手にとってみて下さい。


 
 
この本は1975年に童心社から出版されました。ほかに佐藤さとるファンタジー全集11(講談社)、講談社文庫佐藤さとるファンタジー童話集[に収録されています。
残念ながら、今では入手が難しい本なので、興味のある方は図書館などをご利用下さ
い。


(2002.4.9.UP)

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渋い緑の折り紙兜 わんぱく天国 紅色の折り紙兜


 この作品は、佐藤さとるさんが幼少時代を過ごした、横須賀の按針塚を舞台にしています。
 作者の少年時代が反映された自伝的な作品で、戦前の按針塚の風景と、そこを遊び場にする少年達の姿が、生き生きと描かれています。

 佐藤さとるさんらしい、行き届いた視点で、当時の遊びや風俗が、細部まで描かれているので、なじみのない遊びをしている場面でも、すうっと惹き込まれてしまう、そんな魅力に溢れた作品です。

 ・・・と、今は、こんな風に自信を持って、この作品をオススメしているワタクシですが、実は子供の頃、最初に手に取った時には、ゲームのルールや、校長先生の講話を長々と書くなんて、へんな話だなぁ。。。と、なかなか読み進められなかった覚えがあります(^^;

 でも、按針塚をめぐって対立していた柿ノ谷と西吉倉の少年達が、めんこ勝負をするあたりから、ずんずん引きこまれ、気がつけば、広い空き地があって、ガキ大将がいる時代の遊びって、なんて楽しそうなんだろう!と、すっかり、この世界に入り込んでいました。
 おそらく、コロボックルシリーズを除けば、一番読み返した作品だと思います。

 そういえば、私がこの作品と出会った頃、学校で、戦争を扱ったお話をかなり読まされていた覚えがあります。
 そのため当時、私の中には、戦前の生活に対して、地獄のようなイメージが出来上がっていました。
 読み終わった時、戦争が引き起こした悲しいエピソードにショックを受けながらも、戦前の世界にも、青空があったんだなぁ。。。と、大発見をしたような思いに駆られたことが、未だに忘れられません。

 佐藤さとるさんの作品の中で、もっともリアリティを追求した作品でありながら、幻想的な楽園に迷い込んだような錯覚に陥るのは、この時の拭い切れない印象が残っているからかもしれません。

 全編に流れるノスタルジックな雰囲気のせいでしょうか、少年たちの姿を、いつまでもそのままとどめておきたくなるような、独特の余韻が残る作品です。



 この本は1970年に講談社から、「わんぱく天国−按針塚の少年たち−」というタイトルで、出版されました。ほかに佐藤さとる全集12(講談社)、佐藤さとるファンタジー全集11(講談社)、講談社文庫に収録されています。

(2002.6.10.UP→2002.10.15一部修正)
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キジバト ジュンと秘密の友だち キジバト

  数ある佐藤さとるさんの作品のなかで、もっとも魅力的な男の子は、だれだろう?と考えたとき、私の頭の中に浮かぶ男の子の一人が、この作品の主人公のジュンくんと、その友だちのダイちゃんです。

 そして、もっとも魅力的な女の子は誰だろうと考えるときに、真っ先に思い浮かぶのが、ジュンくんのお姉さんのミサオちゃんなんです。

 もちろん、誰が一番かなんて、絶対に決められないのですが、真っ先に頭の中に浮かぶということは、やはり、私にとって、この作品の魅力は、登場人物に拠るところが大きいようです。

 ジュンくんは、芯の強さと用心深さを兼ね備えているものの、一見ごく普通の男の子です。ただ、男の子らしい職人気質と、自分の庭から見える鉄塔にダイスケ鉄塔と名づけてしまう、想像力を兼ね備えているところが、他の男の子たちと一線を画する魅力となっています。

 この内面世界の豊かさは、佐藤さとるさんが描く男の子が、共通して持っている資質です。
 ジュンくんは、そういう佐藤さとるさんの描く男の子の魅力が、もっとも巧みに描写されているキャラクターの一人だと思うのです。

 このお話は、そんなジュンくんが、自分だけの秘密の小屋を作る過程でめぐり合った、不思議な友だちとの交流を描いた作品です。

 物語は、自分だけの秘密の小屋を作る作業に、ダイスケ鉄塔のお化けかもしれない少年との出会いが絡むことで、二重の秘密を抱える構造となっています。 

 この二重構造が、小屋つくりという作業を、より一層秘密めいたものとし、ジュンくんの内面世界に深みを与えています。
 一方、小屋つくりのリアルな描写によって、本来、ありえない筈のダイちゃんの存在感は、よりリアルなものとなっています。
 人物の行動の一つ一つを丹念に描くことによって、その間にさりげなく織り込まれた不思議な出来事に現実感をもたせてしまう、佐藤さとるさんならではの手法の巧みさが、存分に発揮された理想的な設定だといえるでしょう。

 また、ダイちゃんの正体を突き止める過程を、推理小説じみた謎解きにせず、以心伝心とでもいうべき、阿吽の呼吸の中にゆだねることによって、二人の絆の強さが強調され、お互いを思いやる気持ちが、新たな感動を生んだのだと思います。

 そして最初と最後に、ジュンくんの姉であるミサオちゃんのエピソードを、織り込んで、心憎いばかりにさりげなく、運命的な出会いを予感させるあたりに、佐藤さとるさんの理想とする物語の集大成をみる思いがします。


 実はこの作品、コロボックルシリーズとも、ちょっとした関係があります。
 当時、コロボックル物語の別シリーズを、岩波書店から出版するという企画があり、佐藤さとるさんは、コロボックルの登場する作品を書き上げたそうです。
 けれども、版権など絡みで、岩波書店から出版することが出来なくなってしまい、急遽、代わりに書かれたのが、この『ジュンと秘密の友だち』だったのです。

 この時書かれたコロボックルの話は、第4作『ふしぎな目をした男の子』として、現在出版されています。
 第4作が、他のシリーズとは違う独特の雰囲気をもっているのは、別シリーズとして想定されて書かれたことも一因だったようです。 
 『ふしぎな目をした男の子』は、コロボックルシリーズの起承転結の‘転’にあたる話とされています。
 場面設定や登場人物に、前作との違いが多いことも一因ではありますが、少し時間をおいて書かれているせいか、全体的に、円熟とでもいうべき、厚みが感じられる仕上がりの作品だと思います。

 思い込みかもしれませんが、『ジュンと秘密の友だち』に登場する人物の描写には、『ふしぎな目をした男の子』に感じる重厚さと、どこか共通する深みがあるように感じられます。
 そのため、私にとってこの作品は、佐藤さとるさんの主要テーマの一つ、― 自分の内面世界を大切にすることによって生まれる新たな出会い ― を描いた作品群の中でも、円熟期の頂点に位置づけられる作品となっています。

 この作品は、佐藤さとるさん特有の、リアリティの中に織り込まれた、ファンタジーの世界に生きる登場人物の魅力を、楽しんでいただくのに最適な作品の一つです。
 また、秘密基地で遊んだ子供のころを思い出しつつ、大人が読むファンタジーとしても、強く勧めたい作品です。


 この作品は、1972年に岩波書店から出版されました。ほかに講談社文庫「佐藤さとるファンタジー童話集Y」、同じく講談社から出版された「佐藤さとるファンタジー全集10、岩波少年文庫(1054)に収録されています。最近まで、岩波少年文庫が流通していたのですが、現在は在庫切れとなっています。残念ながら、現在新刊での入手は難しいと思います。

 なお、この本の出版に関するエピソードの記述は、偕成社『現代児童文学作家対談1』を参照させていただきました。

(2004.2.15.UP→2004.9.20一部修正)
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