ひまわりの展覧会へのみちしるべ
2003年9月

■2003/09/12 (金) 「フリーダ・カーロとその時代展」

 お久しぶりです。
 しばらく休止していた展覧会レビューを今日から再開します。
休止中は、思っていた以上に余裕がなくて、展覧会にも全く行っていなかったのですが、ようやく展覧会を楽しむ余裕が出来てきて、ほっとしています。
秋はいろいろ気になる展覧会も多いので、こちらの更新頻度もあがるのではないかと思います。

 久々に行った展覧会は、Bunkamura ザ・ミュージアム「フリーダ・カーロとその時代展」です。
最近、日本でも関心が高まっているとはいえ、フリーダの作品をまとめてみることができる機会は、なかなかないので、行ってみました。
ポスターや宣伝には、フリーダ・カーロが前面に登場していますが、実際は、フリーダ・カーロの他にも、フリーダと同じようにメキシコを拠点に活躍した4人の女流画家の作品と、数人の女流写真家の作品を展示している、メキシコ女流アーティスト展という趣の展覧会でした。

 展示されている作品数は、それぞれの画家ごとに、ほぼ均等だったと思うのですが、フリーダの作品には、圧倒的な存在感がありました。
フリーダ以外の4人が、シュルレアリスムの手法を駆使して、夢とうつつの間をさまようような幻想的な世界を構築しているのに対し、自分の思いのたけを画面いっぱいに表現したフリーダの作品は、シュルレアリスムの範疇には収まりきらないあくの強さに満ちていたと思います。
他の四人がヨーロッパ圏からメキシコに移住した西欧人であるにのに対し、彼女だけがメキシコの血を受け継いだ人間であったことが、このような表現の差になったのかもしれません。
 ただ、それはあくまでもひとつの要因に過ぎず、フリーダ独特の表現は、彼女の人生そのものが、あまりにも激しくドラマチックであったことと、その運命の激しさに負けない強さを持っていた女性だからこそ、生まれた世界だったのではないかと思います。

 この展覧会で用いられた、同じ時代に活躍した女性画家というくくりは、決して間違いでないことはわかるのですが、結果的には表現の方向性、本来の資質において、フリーダは孤高の画家であったという事を強く印象付ける展示内容だったと思います。

 フリーダの作品は、印刷された作品を見慣れた身には、拍子抜けするほど、小さなものが多かったです。これは若いころの事故によって、体の自由が制限されていたことが原因だとは思うのですが、もし大画面を描く体力が彼女にあったならば、夫であるディエゴをしのぐほどの大壁画を描いていたかもしれません。
ただ、健常者であったならば、抑圧されたものをすべて絵筆に置き換えるような画風が生まれていなかったかもしれませんが・・・。
また、情熱がたぎるような画題にもかかわらず、おどろくほど丹念に描きこんだ筆のタッチには、ルソーを彷彿とさせるような、素朴さがあったのも面白かったです。
圧倒的な力強さと情熱を感じさせるオーラは、一体どこから出ているのだろうと、思わず見なおしてしまうほど、筆のタッチと題材の捕らえ方に落差があったように思います。

 本来私は、どちらかと言えば、フリーダの作品よりも、キャリントンや、バロのような幻想的な世界が好きなはずなのですが、フリーダの作品を前にしてしまうと、他の作品が非常に小さくこぎれいにまとまっているように感じられ、少々色あせて見えました。幻想の世界のもろさとはかなさが裏目に出ているようで、ちょっと残念でした。
彼女たちの作品は、小さなギャラリーでひっそり見るほうが、楽しめる気がします。

 全体的に見て、展示してある作品の質が整っていたし、メキシコ美術のひとつの時代を確認するという意味でも面白い展覧会だったと思います。
切り口もbunkamuraらしくて非常に好感が持てました。これからもこういう感度のよい展覧会を開催してほしいと思います。

 余談ですが、バロの写真を見て、彼女が描く人物とあまりにも目鼻立ちが似ているのに思わず笑ってしまいました。
船越桂なんかもそうなんですけど、自分と似た雰囲気を描くのってやっぱりナルシシズムの変形なんでしょうかねぇ???

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■2003/09/20 (土) 「鉄道と絵画」展

 「フリーダ・カーロ展」の翌日にいったのが、東京ステーションギャラリー「鉄道と絵画」展です。
正直言ってあまり期待して行ったわけではなかったのですが、かなり見ごたえのある展覧会でした。
掘り出し物と言って良いでしょう♪

 鉄道が、絵画の中にどのような形で取り上げられてきたかを、歴史の流れに沿って検証するという趣旨の展覧会だったのですが、鉄道がこれほど多用な表現媒体であったことに驚きをかくせませんでした。
 美術的な様式の変化はもちろん、鉄道の果たしてきた社会的役割や、風俗など、それぞれの時代の息吹が感じられる展覧会だったと思います。
 また、テーマ展にありがちな独り善がりな部分がなく、誰がみても展覧会の趣旨がわかりやすい展示であったことにも非常に好感が持てました。

 展示は、ターナー(残念ながら模写。借りることが出来なかったんでしょう★)から始まり、印象派の時代を経て、未来派やシュルレアリスムの時代へ移行していく過程を、時系列にしたがって確認できるようになっていました。そして、最後に日本の鉄道絵画を紹介していました。
 展示室ごとに全く違う鉄道文化をみることができて、非常にメリハリのある内容だったと思います。
 個人的には、未来派の作品や、走っている鉄道を覆うように、上空に浮かんでいる骸骨を描いた作品などが、かなりインパクトがありました。
この骸骨と鉄道の不気味なコラボレート作品は、近代文明の象徴であった鉄道が、いつのまにか死の象徴として扱われているという点においても、興味深かったです。
あと、カッサンドルのポスターをはじめて生で見ることができたのも嬉しかったです。

 そういえば、ポスターやチラシには、オーガスタス・エッグや、赤松鱗作の「夜汽車」など、比較的落ち着いた作品が前面にでていて、私が面白いと思った作品は、前面に取り上げられていたわけではありませんでした。だから、余計に思いがけない作品に出会えた気分になったのかもしれません。

 この展覧会は、出品作品が、比較的マイナーなものばかりでも、テーマと工夫次第では、水準の高い展覧会を作ることができるという好例だと思います。
 また、美術ファンはもとより、鉄道マニアの方々や、歴史ファンの方々がみてもそれなりに、楽しめるように目配りされていた点も評価できる点だと思います。
ここが、JR東日本直営の美術館であることを考えるならば、まさに適材適所の展覧会だったと言えるでしょう。

 この展覧会、東京はもう終わっていますが、これから、ひろしま美術館、栃木美術館、福岡市美術館を巡回するそうです。興味のある方は、ぜひ行ってみて下さい。

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■2003/09/20 (土) アレクサンドロス大王と東西文明の交流展

 最近、寺社関連の展覧会続きだった東京国立博物館が、久々に行ったちょっと目先を変えた展覧会です。
多分、この夏もっとも規模の大きな展覧会のひとつだと思います。
 アレキサンダー大王の東進を足がかりに、西の文明が東の果てにある日本にまで及ぼした影響を、検証していくというスケールの大きなテーマをかかげた展覧会でした。

 前半は、ギリシャ・ローマ系の彫刻作品がならび、後半は、ヘレニズム文化を経て中国・日本へと文化が伝播した過程を、実物とパネルを駆使して示していました。
 これは、楽しめる上に、勉強にもなる、なかなかのすぐれものでした。
特に、日本のコーナーにかかげられたパネルは、図像の伝播の過程を実例を用いて説明していて、わかりやすかったです。

 おそらく、ここで示されている説は、この展覧会の監修をしている先生の学説をそのまま具現化したものだと思います。
いや、ここまで自分の説をそのまま展示で示すことができたら、大したものだと思います。
本の図版でみるよりも、実物を見たほうがはるかにわかりやすいですし、非常に勉強になりました。
 興味のある方は、田辺勝美『毘沙門天像の誕生』を読むべし。・・・というか、これを読んでから展覧会を見た方が、言わんとしていることは、わかりやすくなるかもしれません。

 それにしても、この展覧会、お金かかってますねぇ〜。
展示作品の所蔵先を見てみると、ギリシャ、イギリス、フランス、ロシア、アメリカの有名美術館や博物館が名を連ねていました。
まるで、作品自体が東西交流を実践するために東進してきたかのようでした(笑)
これだけあちこちから所蔵品を借りるのってすごくコストがかかっていると思います。さすが東博って感じでしょうか。

 でも、正直言って、ローマ系の彫刻は数が多すぎて、ちと、間延びしていたような気がします。後半の展示の方が、内容は締まって見えました。
 あと、日本からの出品作品は、ちょっと弱かったかなぁ。。。
東寺の「兜跋毘沙門天立像」が見れるものとばかり思っていたのですが、展示してあったのは、それの模刻作例だったし、快慶の作った執金剛神立像も思っていたよりもかなり小ぶりで、ちょっと物足りなかったです。

 なによりも残念だったのが、展示替えのはざ間にいってしまったために、「風神雷神図」が見れなかったことです。
展示ケースに入っていたのは、なんと、印刷された複製画でした。
しかも、この展覧会で展示される「風神雷神図」って、酒井抱一の作品だったんですね。
確か、東博は、光琳の「風神雷神図」を所蔵していたはずなのに。。。
抱一の作品が展示できないんだったら、自分のところで持っている作品の方が格も上なんだし、出し惜しみしないで見せようよ!というつっこみを入れずにはいられませんでした。

 出品作品の数も多いし、見ごたえがないわけでもないのですが、ちとテーマが壮大過ぎて、それに見合うだけの水準の作品は集められなかったかな、という印象の展覧会でした。
ステーションギャラリーの展覧会を見た後だっただけに、テンポの悪さを感じずにはいられなかったです。

 まぁ、展示の意図はさておき、ギリシャ・ローマの作品はもちろん、ヘレニズム系の作品も、日本ではめったに見られないものが、満載ですので、そのへんに興味のある方は、とりあえず行っておくべき展覧会だと思います。

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