今年、私が最後にみた展覧会は、東京ステーションギャラリーで開催中の有元利夫展です。
有元利夫さんは、1984年に38歳の若さで早世した画家です。
フレスコ画や日本画の技法を駆使して作り上げた独自の空間と、そこに描かれたどっしりとした女性の姿は、いまだに本の装丁などに用いられているので、目にしたことのある方は多いのではないかと思います。
私が、彼の作品と最初に出会ったのも、宮本輝さんの小説の装丁でした。
有元さんの作品を用いた装丁は、あたかも、宮本輝さんの描く、生と死を見つめた重厚な世界を、あらゆる現世の法則から解き放たれた、神聖な光と音楽に満ちた世界で、包み込んでいるような心地良さがありました。
その印象が強烈だったせいでしょうか。私にとって有元さんの作品は、神聖なイメージと強く結びついているのです。
嬉しいことに、今回の展覧会図録には、宮本輝さんが文章を寄せています。
輝さんが、有元さんの作品をどう感じていたのかということは、私の密かな関心事だったので、読むときは本当にドキドキしました。
図録を買った理由の2,3割は、宮本輝さんの文章が載っているってことだったと思います(笑)
実は、有元さんの展覧会には、数年前に一度行った事があります。
でも、今回の方が、比較にならないほど、私の心に響いてくるものは、大きかったです。
はっきり覚えているのですが、以前行った展覧会場では、BGMにバロック音楽をずっと流していました。
(有元さんの作品は、音楽を源泉としたものが多いので、そのへんを狙った演出だったのでしょう)
そのときの印象を書いた感想メモには、音楽が良い感じだったと書いてあるんですけど、どうやらそれは、私の判断ミスだったようです。
この人の作品を見るときには、余計な音は必要ないんです。
音のイメージはすべて作品の中にありました。
人の話声が、こんなに煩わしいと思った展覧会は、ここ最近お目にかかったことがありません。
話し声がうるさい時には、耳をふさいで見てました。(…ってかなり怪しい人だったかも(汗))
でもそれ程、現実の音を聞くことで、そのイメージが、かき乱されるのが、耐え難かったんです(^^;
有元さんの作品の中には、見る側の感情をなにもかも受け入れてくれそうな抱擁力があります。
その反面、他の何物をも立ち入ることを許さないような、絶対性が支配しているような気分にもさせられます。
ある意味、これほど、見る側の気持ちで印象が変わる絵はないんじゃないかと思います。
登場する人物も、地上にどっしりと立っている人の方が、重力を感じさせなくて、空に浮かんでいる人が逆に、人としての重みを感じさせる気がするし…。
本当に捕らえどころのない絵なんですよね。
この人の描く人物は、大半が女性なのですが、非常にどっしりとした重みを感じさせるプロポーションをしています。
女としての生々しさが消えて、人間としての重みだけを残しているという気がします。
彼の描く情景の中で、人物が安定した存在感を示すためには、これだけの厚みと重さを感じさせるフォルムが必要不可欠だったことは確かでしょう。
…そういえば彼女たちの姿って、原始社会の大地母神信仰を彷彿とさせるものがあるようにも思えました。
これだけの深みを持つ世界を、20〜30歳代の人間が描くことができたこと自体、信じられません。
よく言われることだけど、この人はやっぱり若くして命を失うことを、察知していたのかもしれません。
こんなに老成した世界は、未来を信じている人には、描けないと思うんです。
84年に描かれた『出現』なんて、仏画の来迎図の構図と酷似しているせいか、来世への旅立ちを暗示している様にしか見えないですしねぇ。。。
死を自覚していたとしか思えないんですよね。道半ばで倒れたというべき年齢の人ではあるのですが、私には、彼の早すぎた死までが、彼の作品の余韻となるべく運命付けられたもののような気がしました。
あと、もう一つ印象に残っていることは、作品の質感です。
彼の作品の質感は、非常に独特で、筆のあとの一つ一つまでが、物語を語ってくれるような、印象があります。
また、古びた風合いを出す様に、わざと絵具を剥落させたり、額に傷をつけたりもしてあります。(いわゆる‘汚し’という作業ですね)
彼の死から二十年ちかい歳月が過ぎ、意図的につけられた‘汚し’は、わざとらしさが抜けて、古びた風合いが、とても自然なものへと変化しはじめているように感じられました。
彼がこの世から去っても、彼の作品は、風化することによって、さらに高らかに、彼の思い描いた世界を歌い上げ続けているようにも見えました。
もしかしたら、彼の作品は、今、時間が最後の仕上げをしてくれているのかもしれません。
あぁ…。語れば語るほど、彼の世界からかけ離れていってしまうようなもどかしさを感じて、焦ってしまいます★
残念ながら、非常にまとまりのない感想となってしまいましたが、とにかくこれは、ほんとに素敵な展覧会でした。
この展覧会で、2002年の幕を閉じることができて、非常に満足してます。
これで、感想がもっとキチンと書ければ言うことないんですけどねぇ。。。(^^;;
なにはともあれ、おそらく、今年の更新はこれが最後だと思います。
この一年、本当にありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
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